ひょっとして数日勾留されたりしたのかも知れない。
その間、あの子は一人でずっと主の帰るのを待っていたに違いない。
どちらかというと主よりシルビーのことが千雪は不憫に思われた。
「にしたって、山下さん、やっぱ俺に対して敵対心まるだしやん」
前に三田村や研二までが、千雪だけを扱いたのは、千雪にちょっかいかけようとする輩から千雪を守るために山下は敢えてそうしたのだ、などと話していたが、それはあり得ないだろうと、千雪は思いなおした。
千雪が部屋に戻ると、論文が一段落ついたらしく、京助は久々髭を剃り、鼻歌交じりでキッチンにいた。
出しのいい匂いが千雪の嗅覚を刺激する。
「腹減った。何作ってるん?」
「論文やってるうちも、おでんが目の前にちらついてたからな」
「おでん! 外が寒かったよって、めっちゃうれしわ!」
コートをクローゼットにかけてくると、千雪はテーブルに深めの皿と箸を用意する。
「京助、何飲むん?」
「おう、やっぱ辛口大吟醸だな」
「熱燗やな」
「おう」
熱燗は湯煎で作るのが一番だと、京助はレンジなどは使わない。
千雪は棚から徳利を二つとぐい飲みを取り出し、鍋に水を入れて加熱すると、大吟醸酒を徳利に注いで湯煎した。
「くっ、やっぱこれだな。たまらんぜ」
ぐい飲みの熱燗を飲むと、京助は言った。
「京助、オヤジ過ぎ」
あふあふとこんにゃくを口にしながら千雪が突っ込みを入れる。
「るせえな。オヤジでもなんでもうまいモンはうまいんだ」
苦笑して千雪も熱い酒を飲む。
「お前、また変な事件に首突っ込むんじゃねえぞ」
おでんと熱燗で温まった頃、千雪が渋谷にあったことを話すと、京助が目くじらをたてて文句を言った。
「突っ込んでへんやん。ただ、例の犬の飼い主が被疑者やって、そのアリバイが俺と会うたことで証明された、て話や」
「こないだの事件のか、近所で男が殺されたって」
「せや」
「正確な時間は出てないぞ」
「あ、もしか、モルグで殺された男に会うたんか?」
京助の発言に、すかさず千雪が聞き返す。
「ダメだ。守秘義務がある」
「今口走ったやん」
京助は眉を顰めた。
「渋谷がまたお前のご意見でも伺いにきたら、やつに聞け」
「ケチ」
「だから、首突っ込むなつってるだろ」
京助は徳利を傾けて酒をぐい飲みに注ぐ。
「ええわ、自分で調べるし」
千雪は携帯で検索をかけた。
「だから、首突っ込むなよ」
京助の言葉など無視して、千雪は事件のあらましを目で追った。
「不動産屋やて。げ、刃物で刺されたらしい」
千雪は一瞬血まみれの状況を思い描いで慌てて打ち消した。
「マンション十階の自分の部屋か」
ドアに靴が挟まって少し開いていたため、通りかかった宅配業者が気になって中を見たところ、男が血まみれで倒れているのを発見した、という。
さらにSNSで杉浦洋二という名前で検索をかけると、杉浦はバーやクラブなど数件を経営しているらしいことまでわかった。
「西麻布にあるバー『ラパン』のオーナーらしいけど、結構横暴な男やったみたいやで」
千雪は情報を読んでいく。
「SNSなんざ、話半分ってとこだぞ。正解かどうかはわからねえ」
京助は苦言を呈する。
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