今までの佐々木周平は誰かに必要とされたから、それに応えてきただけだ。
春日の庇護の下だからこそ、いかにもデキるクリエイターですというような顔をしていられた。
俺は河崎さんらと違ごて、デキる男なんかやない。
仕事に対する自信すらここにきてグラついた。
そこにつけこまれたんか? あの男に。
「佐々木さん、どうかした?」
「え……?」
「いや、今日の佐々木さん、いつもの確固とした自信に溢れたオーラがみえないというか、何か迷子の少女みたいに頼りなく見えるというか」
藤堂の口にした迷子というキーワードに佐々木はドキリとする。
「買い被りですよ。事実、俺なんか、一人で放り出されてまごついているばっかで」
赤坂を抜け、新宿通りを通り、いつの間にか車は一番町へと入っていた。
「着きましたよ、どうぞ。なかなか素敵なビルだ」
オフィスの入っているビルの前で車を停めると、藤堂は佐々木がバッグを掴んで降りようとしているうちにドアを開けてくれた。
「あ……どうも。あの……、時間があれば、お茶でもいかがですか?」
躊躇いがちに藤堂を見上げた佐々木は、藤堂や河崎もでかいんだな、などとあらためて思う。
「いや、そんな風に見つめられると、あやうくヨロメキそう」
「………え?」
意味ありげな藤堂の台詞に、佐々木は戸惑い答えに窮する。
「大変魅力的なお誘いなんだが、これからスタジオを覗きにいかなくてはでね。今度はこちらからお邪魔しますよ」
藤堂が颯爽と運転席に乗り込むと、夕暮れの中へと車は走り去った。
「お帰りなさぁい」
オフィスへ足を踏み入れた途端、直子の明るい声とともに心地よい香りが佐々木を取り巻いた。
出かける時にはなかった白地の壷に、カサブランカを中心にバラやシオンなどが生けこまれている。
オフィスは暖かく、見慣れた直子の笑顔は佐々木を落ち着かせた。
「ごめんね、遅くなって。花、いいね。ナオちゃん、生けたの?」
佐々木はソファにバッグを放り、腰を降ろした。
「そう。ナオ、一応、生け花やってるんだよぉ。それ、ナオと会社の女の子から佐々木ちゃんの独立のお祝い。はい、お茶、ちょうど入れたとこ」
直子はトレーからカップやケーキを佐々木と自分の前に置いて、紅茶を注ぐ。
「え、ありがとう、参ったな。こっちこそ、ナオちゃんに来てもろて感謝してるんや」
佐々木は心からそう言った。
「いいの。ナオなんか、女の子みんなに羨ましがられてるんだから、佐々木ちゃんと一緒に仕事できるって」
「いや、ほんと助かる。あ、そや、初仕事の企画書」
佐々木はバッグの中のフォルダから、さっき浩輔に渡された企画書をテーブルに置いた。
「わぁ、浩輔ちゃん担当なのぉ? 楽しそう」
「浩輔、ようやく本領発揮? でも、最近スーツなんか着てないからとかブツブツ言うてた。って、俺もや。老舗の大和屋やしな、適当なスーツ、引っ張り出しとかな」
はっきり言ってそういうことは佐々木にとって苦手な部類に入る。
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