古谷にもギャップが激しいと言われたことがある。
ただ、良太の付き合っている相手が工藤と知らなければ、良太をずっと自分の手元に置いておきたいという思いが、良太を恋愛対象としているのだと気づくことはなかったかもしれない。
良太が工藤にメタ惚れなだけでなく、工藤も良太を大切に思っているのだとわかり、一旦は良太を諦めたものの、精神的にささくれ立っていたあの夜、良太を酔わせて部屋に持ち帰ってしまおうという獰猛な思いに駆られた。
だが、そんな沢村の心を読んだかのように、工藤からの呼び出しを受けた良太は、人遣いが粗いオヤジだ、とブツブツ言いながらも嬉しげにとっとと帰ってしまった。
笑うしかなかった。
心に結構な痛手と凶猛な思いを抱えたまま入ったホテルのバーに、あの人がいたのだ。
「ねぇ、待ってってば、沢村さん!」
唐突に思考が中断された。
「呼んでるのに全然気づかないんだから」
いきなり後ろから背中を叩いて沢村の腕を掴んだのは、パーティで会った岡田マリオンだった。
佐々木が直子とべたついているのにイラついて窓際で頭を冷やしていたところへ、声をかけてきたのだ。
「S&Wコーポレーションって、あなたの会社ですってね」
マスコミとか、ましてや一度しつこく言い寄ってきたのでちょっと付き合ったもののウザったくて直ぐ別れたことがある女子アナなどとはもう金輪際口も聞きたくない沢村だったが、マリオンに日本ではほとんど知られていないはずの会社の名前を言われて、ちょっと気になった。
「俺の会社というわけではない。俺はオブザーバーみたいなもので、CEOは友人だ」
「友人の弁護士が、あなたのパートナーのウィルソン氏と知り合いなのよ。イーストンに野球チームを持ってるのね?」
「もともとウィルソンがキッズチームを持ってて、その運営に俺も参加しているだけだ」
会社は弁護士のウイルソンが動物保護活動に力を入れており、ペット用グッズを制作していることや、日本支社を立ち上げたことなど、流れでそういう話になった。
「以前、MLBに行くつもりだとか聞いていたけど、ポスティングはやめたの?」
自然な物言いをするマリオンは妙な下心を勘ぐらせるようなものはなかったが、そういう話を彼女とするつもりはなかったので適当に相槌を打った。
その間に、佐々木が帰るらしいと気づき、焦って後を追ったのだが。
「それにしてもどうして雨の中濡れて歩いてるのよ、ちょっとこっち」
沢村はマリオンに腕を引かれてたまたま開いている近くのバーに入った。
「そういえば、クリエイターの佐々木氏と知り合い?」
バーボンを口にしながらカウンターでぼんやりしていた沢村は、マリオンを振り返った。
「え……」
「だって、佐々木氏が帰る時、佐々木さん、って呼んだでしょ?」
「そうだったか………」
「藤堂さんが紹介してくれるって言ってたんだけど、残念だったわ。稀代の天才クリエイターなんですって。それに、暗がりだったけど、彼、相当の美形よね。彼なら大人の女が傍にいるのが似合いそうなのに、彼女は可愛い系で、ま、本人たちにしてみたら大きなお世話よね」
マリオンは屈託なくアハハと笑った。
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