グラスを握る手に力が入り、沢村は一気に飲み干した。
そう、あのハロウインの夜、あの人、最初、すんげー美人って思ったんだ。
近づいて話しかけたら、男だった。
あの人は既に結構酔っていたし、どうやら振られたような話で意気投合して、部屋にあの人を連れて行った。
赤ワインが飲みたいというので、ルームサービスで頼み、飲んでいるうちに自分の中の歯止めが効かなくなった。
多少は酔っていたからその勢いもあったかもしれないが、酒にはかなり強いし前後不覚になるようなことはない。
決して女っぽいわけでもないのに、佐々木の仕草や雰囲気には妙にそそられるものがあるのだ。
気がついたらベッドに押し倒していた。
おそらくひと目見た時から囚われていたのだ。
最初は紳士的に扱っていたつもりだが、やってる最中の佐々木はめちゃ可愛くて、もうきれい過ぎて、完璧箍が外れた。
抱き心地は例えようがなく、佐々木が男だとかそんなことも、頭から吹っ飛んでいた。
朝、佐々木が出て行くのに気づいてベッドを飛び降りたが、シンデレラは落し物をしていってくれた。
あいにく酔い潰れるということがない沢村は、その落し物が佐々木にとって大切なものだと言っていたのを思い出した。
ただ、記憶をたどっても、名前は出てこない。
どうやら互いに名前を名乗らなかったのだと悔やんだものの、何とか佐々木を探し出す方法はないかと、例えばバーに行けばひょっとしてわからないだろうかと、沢村は思い巡らした。
その時沢村の頭に、前の晩、ホテルで良太が誰かと話しているシーンが蘇った。
良太が挨拶をしているその相手が、うろ覚えだが佐々木のシルエットと重なるものがあった。
早速良太に連絡を取った。
「え? 夕べ? 男で髪の長い美人? って佐々木さんのことか?」
ビンゴだった。
「その佐々木さん。クライアント?」
「いや、クリエイターだよ、今度の仕事の。CMとか作ってる人」
「ほんとか? じゃあ、今度立ち上げる会社のCMの相談とかしたいんで、連絡先、教えてくれないか?」
とんとん拍子に佐々木の情報は仕入れることができた。
良太から聞き出した佐々木のオフィスに電話を入れてみると、反応は予想通りだった。
確かに行きずりの相手からしかも男から電話が入ったら、蒼白ものだろう。
実際あれは合意だったとはいえない。
訴えられてもおかしくはないことをした自覚もあった。
二度目に会った時、もし完全に拒絶されていたら、無理強いをするつもりはなかった。
素面の佐々木は、理知的な大人に見えたから、精一杯背伸びをした。
少しずつ、距離を縮めていけば佐々木を手に入れることができるのではと………。
いや、何よりもう佐々木に夢中になっていたのだ。
素のままの自分でいたかったから、佐々木が自分のことを知らないのをいいことに、名を明かさなかった。
それに野球選手だということであそこまで嫌がられるとは思っていなかった。
それだけじゃないか………
身代わり? 俺にとっては身代わりなんかじゃなかった。
やっぱりゲームオーバー、目が覚めたってとこだろうか。
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