「もしかしてナオちゃんなら、あの母親ともうまくやっていけるかもやなぁ」
一見ギャル風イメージやゆるキャラの雰囲気とは相反して、祖母からしっかり躾けられたという直子はそれこそ生け花などお稽古事もこなし、最近、直子は会社帰りに佐々木の母親のところへお茶の稽古にも通うようになった。
何しろ直子は一般常識やしきたり的なことも詳しく、ジャストエージェンシーでも年賀状やお歳暮の手配など直子に頼っていた。
当然独立したばかりのオフィス佐々木としても不可避なオフィス内外の雑事に関しては、佐々木一人なら全く気が回らなかっただろう。
だが、やはり直子と佐々木の関係は、上司と部下以上のものがあるものの、それは兄妹とか友達とかそんな感じで、恋愛感情はないのである。
だから、昨夜のパーティで、佐々木ちゃんはナオだけのものなの、などと口にした直子に何となく違和感を覚えたのだ。
まあ、それもわりと酔っていたからだろう。
昨夜のことを思い出すと、どうしてもトモのことを考えずにはいられない。
別れ際のトモの顔を思い出すと、胸がキリキリと痛むのだ。
別れというのはその度ごとにきつくなってくるものなんだろうか。
「年も取ったしな」
佐々木は苦笑いする。
十時少し前に母屋に出向いた佐々木は、母屋側の庭がきれいに整えられているのに気づいた。
植木屋が入ったのだろう、母屋側は玄関の花ひとつとっても、母親の淑子が手を抜くことはない。
一転佐々木の居住する離れの方に至っては、庭というより荒れ果てた森のようになり、何が出てきてもおかしくないような有様である。
敷地が広いだけに隅々まで手入れをするのは至難の技なのだ。
母屋にしても築何十年になるのか、必要に応じて応急処置はしているものの全体的にガタがきているのはよくわかっている。
年に一度大掃除をさせられるので、何とか上辺は保っているのだが。
「せや、まだ大掃除が残ってんのや」
いきなり現実を突きつけられる気分になる。
色恋にウツツを抜かしているような余裕はないのだ。
げんなりした気分で母屋に向かうと、向うからしゃきっと着物を着た母親がやってきた。
「時間がありません、周平、すぐに車を出しなさい」
今年古希を迎えた淑子は、周りにああしろこうしろというだけで、実は自分ではほとんど何もやらない。
せいぜい、お茶のお稽古に使う部屋の床の間に飾り物をしたり、花を生けたりする程度である。
それ故大掃除も当然、淑子は命令するだけ、実際やるのは佐々木と今通ってきてくれている家政婦の仲田さんの二人で毎年丸一日がかりになるのだ。
だが今年、大掃除を予定している三十日、佐々木は専門業者を頼んでいた。
でなければやっていられない。
佐々木が中学の頃までは、京都から嫁いだ淑子について佐々木家にやってきた淑子の乳母さわのが何もかもをやってくれていた。
そのさわのが亡くなってからというもの、佐々木が食事を作り、洗濯をし、たまに掃除をするという程度で、庭師に入ってもらう庭を除けば、次第に家は荒れてきた。
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