残月14

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 千雪はそう言ってはくれたものの、工藤の中にはやはり千雪がいるのではと、良太の中ではずっとそれは消えてはいない。
「元奥さんのことも研二さんに?」
「いや、元ワイフが再婚するって研二さんに伝えに来た時、俺、彼女から聞いたんだ」
 それを聞くと、檜山が本当に研二のことが好きなのだと、良太は思った。
 確かに、檜山は思っていることをストレートに口にするタイプだが、やはり研二のことになるとなりふり構っていられないのだ。
 何故か相手が女性じゃないことも檜山だからかすんなりと入ってきてしまう。
「でも、千雪さんと研二さんが相思相愛だったとかって、どうして…」
「千雪の目を見ていればわかるよ。何だろう、これは俺の想像でしかないんだけど、優しい研二が千雪と江美子のためを思って身を引いたけど、千雪には京助が取り憑いたんだ」
「と、取り憑いたって……ハハハ」
 能楽師ならではこその言い方かもしれないが、そう言いたくなるのはわからないでもない、と良太は思う。
 そして千雪がいかに人を惹きつける存在なのかを改めて思い知る。
「あ、でもその江美子って、誰? 幼馴染って言ったよね?」
 良太は千雪の周りからその名前を聞くのは初めてだった
「そうか、良太は知らなかったんだ。江美子って、千雪や研二の幼馴染で、何年か前に亡くなったらしい。子供一人残して。研二が結婚して、割と間もなく江美子は家業を継ぐために結婚した。千雪と仲が良くてきっと二人は結婚するって言われてたみたいだけど」
「うわ………なんっか複雑過ぎ……こんがらがってきた」
 良太は無暗に頭を掻きまわした。
「じゃあ、京助さんは? まさか研二さんのこと知ってるとかないよね?」
「いや、とっくに知ってるみたいだ」
「ええ? だって、スキー合宿の時とかも、あのヤキモチ妬きの京助さんが、研二さんとすごくいい関係って感じだったけど?」
 あり得ないだろ。
 って、どういうことだよ。
「一人ひとり、いろんな思いや人生があるってことさ」
 悟りきったような言葉は複雑なしがらみを背負っている檜山の口から聞くと重みを増す。
 良太は、ふう、と大きなため息をこぼした。
「何だかなあ。いやあ、俺なんか、超単純な人生だったから、ちょっとオヤジがお人よしで家が取られたとかはあったけど、俺、大学までただ野球だけしかやってこなかったし」
 檜山は笑った。
「良太はすごく、幸せに育ったんだなってわかる」
「ええ?」
 工藤と同じようなことを言われ、良太は何も言い返すことができない。
 確かに、聞いてみれば檜山も工藤も千雪もそれに研二も今知ったのだが、いろんな思いを抱えた人生を送っているのだ。
「そだ、忘れないうちに訂正しておくけど、俺、研二さんのことそういう意味で好きとかじゃないからね?」
 良太は断言した。
「そうなんだ?」
 檜山はじっと良太を見つめた。
 良太はコクコクと頷いた。
「はあ、じゃあ、やっぱ、良太はボスか」
「は?」
 今度は良太が檜山を凝視する。
「最初、良太の目線を追ったら、ボスだったから、ちょっと、それも大変だなと思って」
 かあっと良太は頭に熱が集中するのを覚えた。

 


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