残月15

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「良太って、ウソつけないやつだよな」
「え、いやあの……」
 そんなにわかりやすいのか? 俺。
 訂正も肯定もできず口をパクパクする良太を、檜山はくすくすと笑った。
 やがて車の音が聞こえ、スタッフがやってきたらしかった。
 監督の日比野も一緒に現れ、スタッフとともに檜山邸を巡り、各部屋の説明を聞いた。
「あちらは?」
 檜山邸の中では離れに廊下続きの比較的新しい建物に気づいた日比野が、檜山に尋ねた。
「ああ、あれは俺の稽古場です。養子になった時、祖父が造ってくれたもので、今も使っています」
「見せていただいても?」
「伽藍洞ですが、どうぞ」
 確かに引き戸を開けると、天井は高く、広く、まるで道場のような作りで確かに伽藍洞である。
 だが左手奥を見ると、屋内に屋根を頂いた所謂能舞台がしつらえてある。
「立派な能舞台じゃないですか」
「祖父が凝りまくって造ったんです」
 檜山が慣れ親しんでいる上、広さ、高さが申し分ないということで、日比野はこの稽古場も撮影に利用させてもらうことにした。
 スタッフと日比野は撮影場所を決めてチェックし、檜山と入念に打ち合わせをした。
 良太は黙って彼らの話を聞きながら、自分でもタブレットで写真を撮らせてもらった。
 やはり檜山が演じるところを観ないとな、と良太が漏らしていたのを聞きつけた檜山が、帰り際、USBにいくつかの動画を入れて渡してくれた。
 その夜いつものごとくコンビニ弁当を夕食に缶ビールを飲みながら、良太は檜山に渡されたUSBを見た。
「うわ、ホンモノだ」
 演目は「羽衣」「熊野」「道成寺」で、芸術に親しむ機会の少なかった良太にもその優美さは十二分に伝わってくる。
 しばらく缶ビールを握ったまま、ぽけっと画面を見つめていた良太は、羽衣が終わったところで飲み干すと、今度は姿勢を正して次を見た。
「コンビニ弁当食らいながら見るってシロモノじゃないよな」
 しっかり最後まで見終わった良太は、その夜夢を見た。
 翌朝起きた時は十分寝たはずが断片的だが夢を思い出すと、どっと疲れが出た。
 優雅に舞う檜山がいるのだが、能面が不思議な表情を見せたと思ったらいきなり鬼と化した檜山がこっちに向かって襲ってくる。
 と思いきや、檜山と研二、それに千雪や千雪に憑りついている京助までが現れ、ずっと向こうに立っている男に気づくが、それはおそらく工藤なのだが、背中を向けて行ってしまうので顔がわからない。
 良太は必死で工藤の後を追うのだが、どうしても追いつけない。
 けたたましいアラームに起こされた良太は、大きく溜息をついた。
「ううう。何で夢見て疲れてんだよ、俺」
 ポフ、と足元にナータンが飛び乗って、にゃあ、と鳴いた。
「ナータン、心配してくれたのか?」
 スリスリしてきたナータンと、ナオナオとご飯を催促するちび猫にはかなわないと、良太はベッドを降りた。
「にしても、何か、重苦しい夢だった~」
 何かに追われて工藤が逃げているみたいな感じで、良太はひたすらその背中を追いかけていた、最後のそれだけが妙にはっきりと思い出された。

 


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