「おいおい、やめてくれよ、何か不吉な予知夢とか」
呟いて良太は首を横に振った。
「いやいや、俺にはそんな能力ないって」
良太は無理やり頷いた。
そういえば、千雪さんが冤罪を被るのを阻止した時に千雪さんのアリバイを証明したとかって工藤言ってたよな。
「京助と俺がたまたま事件に関わっていて、千雪のアリバイを証明したからな」
そう言ってたけどあれってどういう事件だったんだろう。
なーんか、工藤、言葉を濁したよな?
小田さんなら知ってるかな。
今度聞いてみよう。
翌日の撮影を控えて、良太は打ち合わせの帰りに日比谷の芝ビルに入っている和菓子、甘味処「やさか」に寄った。
個数が多いのであらかじめ予約をしておいたのだが、ロケ現場と会社、それに下柳チーム、ついでにいつも藤堂には美味しいスイーツを頂くので、プラグインやオフィスササキにも持っていく予定だった。
もちろん日頃お世話になっている鈴木さんにも忘れてはいけない。
「いらっしゃい」
良太が店を訪ねると研二がにこやかに顔を見せた。
この店は京都の『やさか』本店の菓子に惚れ込んだ芝ビルのオーナーが東京にぜひ支店をと研二に持ちかけて実現した店だという。
和菓子のテイクアウトとともに甘味処となっているが、デザインなどオーナーの懇意のデザイナーが担当し、和を強調し過ぎないスタイリッシュな和風カフェとなっている。
研二もいわゆる和菓子職人といういでたちではなく、頭には黒のバンダナ、上は白の襟付きの白衣だが、下は黒のパンツに黒のロングエプロンで、背が高い研二にはよく似合っていてどこかのギャルソンのような雰囲気だ。
ここのスタッフのユニフォームも著名なデザイナーの手によるもので、スタッフのマナーも完璧でプロ意識が高い。
「急にたくさんお願いしてすみません」
「どうもおおきに。けど、ロケに持ってくのて明日やろ? どうせなら少しでも出来立ての方がええし、明日届けるわ」
「え、そんな、お手間をおかけするわけには」
研二のありがたい申し出に良太は恐縮する。
「ここちょうど明日は定休日やし、匠のうちは知ってるよって」
匠から研二の話を聞いた後で、良太は少しドキリとしたものの、研二には何のわだかまりもないようすだ。
というか、ロケに持っていくという話を良太はしていないので、すると檜山から聞いたのだろうか。
「夕べ、良太から注文受けたあとで、匠から連絡もろたんや」
「あ、そうでしたか、それじゃよろしくお願いします」
ごめんなさいされたと檜山は言っていたと思うが、ごく普通に友人関係でいられるのだろうか。
「良太、クリームあんみつ、おごったろか?」
いきなり後ろから知った声がして振り返ると、千雪が立っていた。
「千雪さん、脅かさないでくださいよ」
「そのくらい時間あるやろ?」
良太は腕時計を見た。
二時半だから、ちょっとくらい休んでも、まあ、あちこち回れるだろう。
「じゃあ、ちょっとだけ」
実はいつもちょっと食べてみたいと思いつつ、なかなかその機会がなかったのだ。
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