残月17

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「俺、抹茶クリームあんみつ。良太は?」
「え、じゃクリームあんみつ、お願いします」
「かしこまりました」
 オーダーを取りに来たスタッフは女性だが、すらりと背が高く、立ち居振る舞いもきれいだ。
「何かここのスタッフさん、研二さん筆頭に、モデルさん並みの方々ですよね?」
 良太はこそっと言った。
「ああ、それ、実は、このビルのオーナーってモデル事務所もやってて、そこのモデルさんがスタッフも兼ねてるんやて。やっぱ駆け出しやと食うていかれへんやろ? きれいな動きとかの勉強にもなるて。しかもオーナーがここに送りこむ前に、マナー叩き込んでるいう話や」
 千雪の話を聞いて思わず歩いているスタッフを見ると、確かに、男女とも歩き方も颯爽としている。
「へえ、徹底してますね」
「まあ、モデルやない人もいてるけど。奥の職人さんとかな」
「今日はそういえば背後れ……京助さんはご一緒じゃないんですか?」
 心の中で背後霊などと言っていた良太はつい口にしそうになって慌てて言い換えた。
「ほんな、いっつも一緒なわけないやろ。暑苦しい背後霊なんか。解剖が入ったとか言うてたで」
「ちょ、背後霊とか、千雪さんが言わないでくださいよ」
 良太は苦笑する。
「あ、そうだ、千雪さんに聞けばいいんだ、事件のこと」
「事件て?」
「こないだ、工藤さんとチラッと話してて、ほら、千雪さんが冤罪で捕まりそうになったって事件で、工藤さんと京助さんが千雪さんのアリバイを証明したとか何とか」
「…ああ、なんや、えろ、昔の話やな」
 あれ、千雪さん、一瞬、戸惑いの色をみせなかったか?
 良太は何だろうと思う。
「千雪さん、こないだ工藤さんが捕まった時、警察に対してメチャ辛らつだったでしょ。俺ももちろんふざけるなって思ってたけど。でも前に容疑者扱いされたって聞いたからきっとそのせいもあるなって」
 九月に工藤が冤罪で犯人にされるところを千雪が真犯人を突き止めた事件の時のことを良太は思い出して言った。
「まあな。初動捜査で見当はずれのことやりよって、犯人なんか突き止められるわけがないやろ」
 また千雪の目がすっとクールに光った。
 そこへ今度は男性のスタッフがクリームあんみつを運んできたので、二人は口を噤む。
「ま、食べよや」
 とりあえず二人とも無言でクリームあんみつを平らげ、お茶をすすったところで、千雪が徐に話し始めた。
「俺がたまたま締め切りに追われてバックレた時のことや」
「へ? バックれちゃったんですか?」
「その頃ずっと、俺は携帯とか嫌いやから持ってなかったんやけど、京助のやつが勝手に渡してよこしたからほんまは持っとったんやけど、編集にはもってないていうことにしとってん」
 良太は苦笑した。
「それ、編集さん信じてました?」
「まあな。俺は変人で通っとるし」
「はあ」
 やはり詐欺だ、と目の前の美貌の主を見て良太は密かに思う。
「その頃、かなり極端な恰好しよったから、なんや、頭がもじゃもじゃの黒縁メガネにジャージの上下て、トレードマークになっとったな」
「面白がってたんでしょ」
「まあな。色とか絶対あり得へん組み合わせやってみたりとか」
 良太は笑った。

 


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