「宮島教授いう人はまた、ぱっとみ人畜無害ですみたいな顔してはるから、皆それにだまされるけど、細い目の奥で、よう人を観察してはる。そんな人が工藤さんのことを自慢げやったから、信用でけん人ではないとは思うたんやけどな、そん時は俺、映画とかドラマとか自分とは無縁の世界や思うとったし」
「宮島教授ってそんな深い人なんですか? 俺、戸塚教授のゼミで、あのセンセ、レポート数分でも遅れたら×とかいう厳しい人だったけど、宮島教授って何かほんわかした人だなって」
良太は久しぶりに母校の教授の顔を思い出した。
「戸塚教授は真面目な人やから。けど、宮島教授を侮ったらえらい目にあうで? レポートなんかちょっと遅れてもええけど、その代わり、ちょっとでもミスると延々図書館通い確定や」
「ひええ、そうなんっすか?」
戸塚教授がそういう人だったから、良太もレポートを遅らせまいと頑張ったのだが、宮島教授の覚えめでたかったことといい、三羽烏の件といい、工藤という男は何とも自分とはかけ離れてデキる男だったのだと再認識する。
実際、工藤や千雪の後輩と名乗ることすらおこがましいような気がしてくる。
「ま、話し戻すけど、軽井沢でタブレットで原稿書いたはええけど、一応編集に連絡しとかんと、思て、公衆電話探したけどどこにもなくて、しかも雨降ってきよって傘も持ってないし、そしたらたまたま工藤さんの別荘の前で平造さんに会うたんや」
「すごい偶然ですね」
「ほんま、軽井沢とか狭いわ。あめ平造さんに中入れ言われて、ついでに電話も借りたんや」
「ああ、携帯持ってること知られないようにですね」
「せや。そしたら工藤さん帰ってきて工藤さんちやったんかってわかって、俺はそん時、素やったし、こら早う出て行かなと思うとったら、編集が工藤さんとこに電話してきよって、平造さんが小林千雪先生に電話やなんて言うもんやさかい」
「それで工藤さんにバレてしまったと」
「せやね。まあ、そのお陰で、アリバイ証明してもらえたんやけどな」
筋は通っている。
通っているが、随分うまくできた話のように聞こえるのは気のせいだろうか。
良太は心の中で思った。
「あれ、その時、背後霊は?」
千雪の話の中に京助が出て来てない気がして、良太は聞いた。
「ああ、そん時な、別れる切れるの大喧嘩してて」
「それはまた………」
それで千雪は締めきり間近でバックレて、軽井沢に飛んだわけか。
なんのかのいっても今も京助と千雪はセットなのだから、そのあと仲直りしたということなんだろうけど。
「そういえばその事件ていつ頃のことなんですか?」
「ああ、もう十年くらい前や思う」
「じゃあ、万里子さんに会ったのもその頃?」
「そう。まだ万里子さんくらいしか俳優さんおらんかったな、青山プロも」
「ってことはやっぱ、俺、まだ高校ん時か」
どうやら青山プロの面接が工藤と初対面じゃなかったというのは確信に近いものがあった。
高校の時に、ニアミスで顔を合わせたことがあったことも。
いつか、そのうち、工藤に話してみようとは思っている。
その時まだ工藤の傍にいられれば、の話だが。
「そうか、まだ高校生やったん、良太」
千雪は微笑んだ。
俺の倍以上長く工藤と付き合いがあるんだ、千雪さん。
良太はしみじみ思う。
何か、今の話なんか気になるとこもあるけど、まあ、いっか。
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