翌日は朝から檜山邸で撮影が行われた。
今回は奈々も出演しているので、谷川と小杉が顔を合わせると何やら真面目な顔をして話をしていた。
良太は離れていたので内容はわからなかったが、ひょっとして小杉が母親を施設に入れたこととかだろうか、と気になった。
小杉は、母親のことをやはり工藤には話していなかったようで、良太が伝えると、「できるだけフォローしてやってくれ」と工藤は言った。
「そういう状況だと、急に施設に呼ばれることもあるだろうし、遠慮せずに言えとお前から言っておいてくれ」
おそらく工藤ならそういう対応をするだろうことはわかっていたので、何か小杉さんが困っているようだったら、自分に知らせてくれるよう、良太は志村にも頼んでおいた。
「小杉さんとは長い付き合いだからな。俺は子供じゃないから一人でもいくらでも動けるし、良太に迷惑をかけることはないようにするよ」
志村と小杉は、小劇団にいた頃からのつきあいで、小杉も元々劇団の俳優だった。
志村を工藤に紹介したのは下柳で、小杉も志村が映像向きだと思っていたらしく、青山プロダクションに入るよう背中を押したという。
ただ、マネージャーがなかなか見つからないだろうという話を志村から聞いた小杉がよかったら自分がと名乗り出たらしい。
俳優としては先が見えているし、家族もいるのでという小杉を、工藤は無論ありがたく招き入れた。
志村は小野万里子に続き、青山プロダクション所属俳優二人目なので、工藤も二人とは長いつきあいのようだ。
「またまた、こないだみたいな時は遠慮しないで俺に行ってくださいよ。動ける時ははせ参じますから」
三十代に入って演技に深みやら重みやらが増してきたと言われ、志村なら盤石とオファーを受けるようになってきている。
この映画はそんな志村にとっても後々まで代表作となるだろうものだ。
スタッフ共々、モチベーションも高い。
さらにこの映画でいい意味で思わぬ選択だったのが、檜山匠だ。
俳優ではないにもかかわらず、ベテラン俳優とも違う存在感といい、舞の優雅さといい、映像的にも文句なしといったところだろう。
研二が現れたのは、ちょうどその檜山の撮影の真っ最中だった。
研二は音もたてずに後ろの方で撮影を見ていた良太の横に、いつの間にか立っていた。
檜山の動きを息をのんでみていた良太は、カットがかかってようやく、研二に気づいた。
「研二さん、いらしてたんですか」
「息するのも忘れるような演技やな」
「いや、ほんと、その通りです」
これは、下手をすると主役も何も食われてしまうな。
辛うじて志村だからこそ、檜山と渡り合えるのだと、良太は感じた。
志村クラスの役者だからこそで、これが人気だけの俳優なら檜山のオーラの前には消し飛んでしまうだろう。
「これ…、封切られたら匠、一気に注目を浴びますね。しかもルックス的にも女子人気相当すごいことになりそう」
「本人、何もわかってない思うわ」
ボソリと言った良太の言葉に、研二が答えた。
「封切り前のプロモーションの段階でもおそらく察知されますよ。匠にそれ伝えとかないと」
多分、檜山はそう言った演技以外の注目に関しては嫌いそうだと良太は思った。
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