残月22

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 当然檜山の出演は、この映画の売りにもなるのだが、広報的に難しいところだ。
「あ、わざわざ届けてくださってありがとうございます。研二さんもお時間あったら、ご一緒にお茶をどうぞ」
「いや、俺は………」
 遠慮しかけた研二だが、「研二!」と駆け寄ってくる檜山に足を止めた。
「来てたんだ。今のシーンどうだった?」
 いつもの能面のような表情のわからない檜山ではない、そんな明るい笑顔を良太は初めて見た気がした。
「ああ、すごくよかった。匠しかできない演技だ」
「ありがとう」
 檜山は本当に素直なのだ。
 研二の出現に嬉しくて高揚した頬を見せている。
「せっかくなら作り立てをと研二さん持って来てくださったんですよ。お茶にしましょうって監督に言ってきますね」
 良太はそう言って日比野に歩み寄った。
 お抹茶とはいかなかったが、美味しいお茶を用意していて、スタッフに手伝ってもらってお茶の入ったカップとお菓子をみんなに配ってもらった。
 先ほどのシーンを撮る前に姿を見せていた工藤は日比野や脚本家の浅沼と話し込んでいた。
「皆さん、お茶をどうぞ」
 大きめのトレーにお茶とお菓子を乗せて良太は声をかけた。
「お、美味そうだ!」
「ありがとう」
「研二さん、今持って来てくださったんです」
 工藤も良太がそう説明すると、お茶とお菓子を取った。
 振り返ると、楽し気に研二と話す檜山が見えた。
「研二さんも、どうぞ、奥で休んでください」
 良太が声をかけると、檜山が研二を促した。
 研二は工藤と目が合うと、ちょっと頭を下げ、開け放してある座敷の方へ檜山に連れられて入っていった。
 二人にもお茶とお菓子を運び、皆に行き渡ったのを確認すると、良太は志村や小杉、奈々や谷川がいるところに混じった。
「ねえ、すっごいカッコいい人、今いたよね? 次のシーンに出るの?」
 こちらも目を輝かせて良太に聞いてきた奈々が勢い良太に聞いてきた。
 確かにカッコいいし、何者だというようなオーラと威厳が研二にはあると良太も思う。
「奈々ちゃん、まだ会ったことなかったっけ? やさかのご主人、黒岩研二さんだよ。今このお菓子作り立てを持って来てくれたんだ」
「ええ? ウソ! 何か、芸能人っていうか、まるでハリウッドのアクションスターみたいな雰囲気ない?」
 奈々の口から芸能人、という言葉が出ると周りがどっと笑った。
「和菓子職人? っていうより、アスリートってか、何かやってるだろ? 彼」
 そう言ったのは元刑事だった谷川だ。
「さすが、鋭い、谷川さん。柔道の段持ちですよ。高校卒業の時、警察からも勧誘されたって、千雪さんの話だと。あ、千雪さんの同級生です」
「ほう」
「こないだの例の件で、辻さん、も千雪さんらの同級生なんですが、研二さんがいれば百人力なんだが、なんて言ってました。ちょうど仕事で忙しかったみたいで、研二さん」
「千雪さんは、頼りになるご学友を何人も持っているらしいな」
 谷川の言葉に良太は苦笑した。
 少なくとも研二は千雪のことを守っているという感じだったスキー合宿を、良太はまた思い出した。
 やはり研二は千雪をずっと見守っている、としたら、匠は相当きついだろう。
 俺にはできそうにない。
 好きな人が別の誰かといるところを黙って見守っているなんて。
 ただ、怖ろしく優しいのだ、研二は。

 


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