残月23

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 千雪も研二を好きだったという。
 現在の状況に至る経緯を知らない自分には何とも言えないのだが、千雪もきつくないだろうか。
 それに研二に会えたことを匠はあんなに喜んでいるのに。
 はあ。
 良太は肩で息をついた。
 やめよう。
 人のことを考えても何もならないし、同調し過ぎて苦しくなるだけだし。
「良太!」
 おっと、鬼がお呼びだ。
 今はむしろ鬼の怒号がありがたい。
 良太は急いで工藤たちのところへ向かった。
「明後日から京都だが、お前はいつなら行ける?」
 京都で一週間のロケのあと、次はニューヨークの予定になっているのだが、ロケ地でトラブルがあり、明日から工藤はニューヨークに発つことにした。
 良太は今、レッドデータアニマルズの編集とHIDAKAのCM制作に携わっており、明日は『パワスポ』放映があり、今日は夕方から打ち合わせが入っている。
 沢村の所属する今年関西タイガースはリーグ優勝し、土曜日からはクライマックスシリーズが始まる。
 二位の東京ジャイアンツと三位の名古屋ドラゴンズが東京ドームで対戦することになっており、パワスポチームもかなり熱を帯びてきていた。
「明後日なら行けます」
 明日はHIDAKAと最後の打ち合わせが午前中に入っているが、そのあとレッドデータのスタジオに顔を出してからパワスポのスタジオに向かうことになる。
「頼むぞ」
 これはまた忙しくなりそうだ。
 京都では主に貴船神社や嵯峨野で撮影が行われる予定だが、ちょうど観光シーズンで、特に嵯峨野はロケに野次馬が押し寄せる可能性もあり、いつぞやのような事故が起きないとも限らないので、スタッフを増員して向かうことになっている。
 ホテルもメインの俳優陣はセキュリティを考慮して嵯峨野近郊のホテルを用意した。
 スタッフも今回六十人から八十人前後の大所帯なので、ロケバスや撮影ポイントなど、打ち合わせの際は良太も加わって多忙を極めた。
 とりあえず、志村、奈々、檜山、それに二村と、ベテラン俳優川島が加わっての撮影となっている。
「忙しそうやな、相変わらず」
 良太がお茶の後片付けをしていると、研二が声をかけてきた。
「お疲れ様です。今日はありがとうございました」
「いや。まあ、京都では匠のこと、よろしゅう頼むわ」
「あ、はい、もちろん」
 良太はやはり優し気な笑みを浮かべている研二を見上げた。
 研二の視線は、撮影に向かっている匠に注がれている。
 なんだかな。
 良太は研二の優しさが図り切れず、小首を傾げた。
 檜山が研二の優しさを嬉しいと思っているのなら、いいのだが。
 研二が檜山に声をかけ、門から帰って行くのが見えた。
 その時檜山に目を移すと、一瞬、檜山が泣きそうな表情で研二の背中を見ているのに良太は気づいてしまった。
 あーあ。
 家の中に戻って行った檜山の気持ちがダイレクトに伝わってくるようで、良太は自分の胸まで痛くなった気がした。
 研二にとって檜山はいったいどういう存在なのだろう。
 親しい友ということだろうか。
 研二は千雪にも優しかった。
 スキー合宿の時のことを今思い出すと、千雪のことをよくわかっていて、世話をしないではいられないというような雰囲気だった。
 檜山ともそんな感じで付き合っているのだろうか。


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