残月39

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 以後の撮影は何とか乗り切った感があったが、二村の表情はさすがに怒ってはいなかったもののこわばったままで、シーンが笑顔になるような状況でないだけマシというところだ。
 疲労困憊でホテルに引き上げた面々だが、斎藤からはフェイスケア用品など男性女性用問わず各種美聖堂の製品が箱で届いていた。
「え、そのシリーズあたしも欲しい! 良太、確保しといてよ!」
 翌日撮影の後、日比野や浅沼をはじめメインスタッフ、志村や小杉、谷川とともにみっちりミーティングを済ませて戻ってきたところへ、アスカから電話が入った。
 たまたま奈々とラインしたところが、二村の件を知ったアスカが心配して良太の携帯を鳴らしたのだ。
 斎藤が低姿勢で二村のために頭を下げ、フェイスケア用品を差し入れてくれたことを良太が何気に告げた途端、アスカが電話の向こうで喚いた。
「アスカさん、美聖堂のCMやっていろいろ頂いてるでしょうが」
「だって、そのシリーズのもらったことないのよ」
「余ってればですよ」
「あるわよ。そうだ、亜弓さんの分ももらっちゃえば?」
 言われて、そうか、と良太も思う。
 確かに余るくらいあるので、鈴木さんにも持って行こうとは思ったのだ。
「それで二村、辞めさせなかったの?」
「辞めさせませんよ」
「あの子、秋山さん情報だと、他の現場でもやらかしたみたいよ? キャリアもないくせに女王様気取りで、確かスタッフ一人辞めさせたみたい」
 それを聞くと良太は嫌な焦燥感に駆られた。
 というのも、ついさっき業界をざわつかせる事件が報道されたからだ。
 若手人気俳優の水波清太郎が覚せい剤所持で逮捕されたのだ。
 お陰で業界はてんやわんやだ。
 なまじっか人気俳優だったために、水波が出演していたドラマや映画やCMがかなりな損害を被ることになるだろうというのは業界内でも共通した意見で、良太も慌てて秋山に連絡を取った。
 アスカが出演するドラマは水波主演だったが撮り直しが予想されるし、さらに先だって水波はアスカと一緒にCMを撮ったばかりだったために、そのことでも良太はアスカからひとしきり水波への暴言を聞かされた。
 クリエイターの佐々木にも連絡を入れたが、こちらもかなり仕事が飽和状態で、佐々木も絶句していた。
 クライアントの対応を待って良太も動く必要がある。
 正直ここで二村にまでこれ以上面倒をおこしてもらいたくはない。
「なるほど、前科ありなんだ。事務所、いったいどういう育て方してるんですかね」
「あの子ね、関西の有名企業の娘で事務所の大株主みたいで、所長も力の入れ方が違うみたいなんだけど、方向性も間違ってるわね。彼女の祖父が美聖堂の斎藤さんとゴルフ仲間で、強引に頼み込まれたって話」
 それを聞くと苦慮していただろう斎藤の心痛を良太は慮った。
「タダの我儘ならアスカさんで慣れてますけどね、彼女のはちょっと問題行動もあったりで」
 良太はボソリと呟いた。
「ちょっと、何気にディスらないでくれる?! 問題行動って何よ?」
 良太は牧や自分に対してウソで陥れるようなことをしたのだと話した。
「俺はいいですけどね、牧さんとか、いい迷惑で」
「良太でいいわけないじゃない! お茶だって熱湯だったりしたら火傷もんよ? 犯罪レベルよ! なんでそこで降ろすってガツンと言わないのよ!」
「工藤さんみたいなこと言わないでください」
「でも二村、いずれどこかで業界から干されるわね」
 電話の向こうでアスカは断言する。

 


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