残月53

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『炬燵を買ったんだよ! ということで、こないだのメンツプラスアルファで、鍋しようね! できれば忘年会がいいけど、良太ちゃん、忙しそうだから、年内難しければ年明けでもいいよ。またスケジュール空きそうな時教えて』
 脱力するような内容だが、宇都宮は炬燵で鍋、を諦めていないらしい。
 良太が、了解! と返信すると、ラジャ、と可愛いアライグマのスタンプが届いた。
 ほんとに憎めない人だな、宇都宮さんて。
 そうだ、これ、絶対亜弓にはうっかりでも見せないようにしないと。
 何だか少し心が痛むが、仕方がない。
 宇都宮さんの、何かポスターとか、グッズとかないか今度聞いてみよう。
 正月にでも渡せるように。
 あっと、そしたら鈴木さんの分も確保しないと。
 いろんな厄介ごとで頭を悩ませるばかりの毎日だが、こんなちょっとしたやり取りって和むよな。
 少しばかりあったかい気分で臨んだパワスポの打ち合わせだったが、結局またシナリオライターの大山の嫌味から始まった。
「半端だよな、二冠とかって。三冠王って肩書が消えると何もなくなるって感じだよな」
 沢村への当てこすりである。
「沢村選手はもともとホームランを追うタイプではないので、今年はとにかくチームの優勝を優先した結果だと思いますが」
 言われっぱなしでは面白くない。
 良太は極力感情的にならない程度に反論した。
「フーン、お友達としては、MLB行きも立ち消え状態の理由とかも聞いてるわけ?」
 その切り替えしに、良太はうっと言葉を飲み込んだ。
 その理由も先日、はっきり本人から聞いたばかりだ。
 佐々木の存在が大きいわけだが、沢村は自分のことをしっかりわかった上で動いているのは確かだ。
「それについては色々考えるところがあるんだと思います」
 聞いてはいるがプライベートで聞いたことを公の場に勝手に乗せるとかするわけがない。
 しかも内容的にデリケートなところが多分にある。
「まあ、記念にMLBでも行こうかなんてのは沢村選手の場合なさそうだけど」
 ディレクターの殿村が割り込んだ。
「けどほら、シカゴ・ビッグベアーズの監督、親善試合で日本に来た時、沢村をえらく気に入ってぜひうちに来いって言ってたらしいし。沢村、英語も喋るから文句ないのにな」
 大山が嫌味を口にする時、実はその選手をリスペクトしたいへそ曲がり的な性格によるものだとは、良太も最近ようやくわかってきたことだ。
 その話は良太も耳にしたことがある。
 ロスアンゼルスで自主トレやっていた時も、ドジャースの監督に気に入られたとかいう話もあるのだ。
 第一、沢村には既にニューヨークに基盤もある。
 S&Wコーポレーションの名称で沢村はウイルソンという人物と共同で会社を興している。
 今現在はウイルソン主体で動いているらしいが、イーストンでのチームとスタジアムの経営にも携わっている。
 まあそれはアスリートとしての活躍とはまた違うものではあるが。
 ただ、佐々木さんのことを考えるにしても、それこそ一緒に行けばいいのに、と良太は思うのだ。
 俺に一緒に来いとかって言ったくせに、佐々木さんには、やっぱなかなかそうも言えないか。
 でも、逆にクリエイターとして知られている人だからこそ、一緒にアメリカに渡ってもやって行けるのではないかと思う。

 


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