残月60

back  next  top  Novels


 撮影隊の到着を待っていたかのように、小樽は初雪が降った。
 翌朝、まだゲームの熱さが残っていた良太だが、うって変わって強烈な寒さの中に立っていた。
 上空千五百メートル付近でマイナス六度以下の寒気が流れ込み、昨日から断続的に雪が降り続く中、これを逃すまいと朝から撮影が始まった。
 今回主役の宇都宮と竹野の他に同行した俳優陣は誰もがキャリアのある実力派ばかりで、この寒さの中、黙々と撮影が続けられた。
 リテイクもなくほぼ完ぺきに撮影が終わったため、撮影陣は早めにホテルに切り上げることができた。
 東京でのいくつかのカットを残して、いよいよ長かった「田園」の撮影も終盤に近付きつつあった。
 ということで夕食のあとは坂口の部屋で飲み会となった。
 それこそもうアップしたかのような坂口の飲みっぷりに、まだ終わってませんよ、と良太は一言物申したところで、酒豪たちが聞く耳を持つはずがない。
「そう言えば今年の日本シリーズ、近年になく面白かったな」
 隣に座った宇都宮も、撮影の時のきつい表情がウソのように、いつもの柔和な笑顔に戻っていた。
 小樽での雪のシーンが終われば、実際終わったようなものだったが。
「ですよね、俺もかなり熱くなりました」
 ここでふられた野球の話題に、良太は大きく頷いた。
「良太ちゃんのライバルの沢村選手がまた気を吐いてたよね」
「ハハ、俺のライバルって、ガキの頃のことですけど、沢村が今年のチームを引っ張っていたことだけは確かです」
「いやあ、アディノのCMも格別によかったし、ほら、あの時オフィスで初めて会ってちょっと話したけど、沢村ってかっこいいよな、ほんと、羨ましい限りだ」
 ロックでぐいとグラスを空けながら、良太がケガをして皆が青山プロダクションに集まった時のことを宇都宮が思い出して言った。
「それ、本人に伝えときますよ、カッコいい宇都宮さんがカッコいいって言ってたって」
 宇都宮が笑ったところで、「ちょっとお、怪しい!」と言いながらやってきたのは竹野だ。
「何が怪しいんです?」
 ほろ酔い加減の良太もへらっと返す。
「宇都宮さんと良太よ」
「へ?」
 すると宇都宮がクククっと低く笑い、「紗英ちゃん、鋭いねぇ」と口にする。
「ああ、その目、絶対本気モード!」
 日本シリーズも終わり、田園の要となるシーンの撮影も終わったことで、良太の緊張も緩み、酔いが回るのも早かった。
「ゼッタイホンキモードって、携帯の新機種とか?」
「良太、もうどうにでもしてモードだわ」
 トンチンカンなセリフを吐く良太を軽く睨んで竹野が言った。
「大丈夫。酔った子を襲うとかアンフェアなことはしないから」
 宇都宮はニヤニヤと笑う。
「ずっと、宇都宮さん、やたら良太にべったりだなとは思ってたんだけどさ」
「何? 妬けちゃう?」
「そうね、結構気に入ってるんだけど、良太、多分誰かいるんじゃって気がしてたんだわ」
 そう言ってから竹野は宇都宮を見つめる。
「宇都宮さんが狙ってたのは知ってるけど、違うっしょ?」
「やっぱ鋭い!」
 飲んだことで疲れがどっと出て、半分眠っていた良太がすくっと起き上る。

 


back  next  top  Novels

にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
にほんブログ村
いつもありがとうございます