残月61

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「沢村はほんと、カッコいいんすよね~」
 それを聞いた竹野は、「沢村って、まさかタイガースの?」と聞き返す。
「子供の頃からのライバルらしいよ。だから良太ちゃんのパワスポだけはマスコミ嫌いの沢村も出てるんだって」
「うっそお、まあ、沢村なら許せないこともないけど?」
 疑惑に満ちた目で竹野は宇都宮を見上げた。
「まあ、ほんと、のようなもん。俺、まだ良太ちゃんに未練ありありだけどさ」
「ふーん。でもフェアでいってよね、こういう一本気な子には」
 宇都宮はまた笑う。
「紗英ちゃん、良太ちゃんより若いのに、姐御みたい」
「この子よりキャリアあるもん」
 そんな二人のやり取りも知らぬ間に、良太はやがて夢の中に落ちてしまった。 
「疲れ切ってるって感じだな、可哀そうだから部屋に運ぶか」
 起こそうとしても寝入ってしまっている良太が目を覚ます気配がないので、良太の脇と膝の後ろに腕を入れて、「よっと」と抱き上げた。
「宇都宮さん、結構力あるね? ってか手慣れてない?」
 また少し怪訝な目で見上げる竹野に、「バッグ持ってついてきてよ」と宇都宮は言った。
 坂口をはじめ他のメンツはそれこそもう出来上がっていて、げらげら笑っている。
「さすがに成年男子を運ぶってのは結構腰にくるね」
 同じ階に良太の部屋はあった。
「ここだ」
 竹野は良太のバッグから出したカードキーを見て言った。
 何とかベッドまで良太を運び込むと、宇都宮は、ふううと大きく息をついてから、良太の靴と上着を脱がせてタイを緩めて引き抜いた。
 上着をハンガーにかけてクローゼットにしまおうとしたその時、上着のポケットの携帯が鳴った。
 宇都宮が取り出すと、工藤、と画面に文字が浮かんでいる。
「もしもし」
「え、勝手に出ちゃっていいの?」
 竹野が見とがめたがもう遅い。
 いきなり良太でない、男の低い声が聞こえてきたため、電話の向こうで工藤は一瞬ためらった。
「誰だ?」
「すみません、宇都宮です」
 それを聞くと工藤は条件反射でカッと頭に血が上った。
 宇都宮が良太をかなり気に入っているのはわかっているので、この電話に出たのもわざとだと工藤は察しがつく。
「今、小樽で、撮影が終わったところで、例によって坂口さんの部屋で飲み会になりまして」
 宇都宮はわざとらしく、ゆっくりと説明する。
 ちょっとした嫌がらせだ。
「良太ちゃん、終わってほっとしたのか、寝ちゃったんですよ」
 あのバカ、飲み過ぎるなって言ってるだろうが。
 それでも事情を聞いて工藤も少しは怒りが収まってくる。
「………雪は降ったんですか?」
「ええ、坂口さんの読みがピタリとあたりました。撮影も滞りなく終わりましたし、それでみんなも肩の荷が降りたって感じで、大騒ぎです」
 坂口のことだ、どうせ飲みまくっているのだろうと、工藤は眉を寄せた。
「良太ちゃん、起こしますか?」
「いや、その辺に寝かせといてください。よろしくお願いします」
 宇都宮が何かまた言う前に、電話は切れてしまった。
「誰?」
 竹野が聞いた。
「工藤さん。今、ニューヨークなんだって」
「工藤さんなら、私も話したかったのに」
 竹野は宇都宮を睨んだ。

 


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