残月69

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「午後からお出かけでしたっけ?」
 お昼に一緒に弁当を食べていた鈴木さんが良太に尋ねた。
「ええ。ほんとは工藤さんが行くはずだったんですけど、英報堂の広報部長、何か怖そうなオッサンだし」
 鈴木さんはフフフと笑う。
「大丈夫よ、良太ちゃんなら」
 何をもって大丈夫とおっしゃるのか………。
 ああ、まあ、あの工藤に初対面から逃げなかったっつうとことか?
 それとはまた違う怖さなんすけど。
 一度、工藤と一緒に会って紹介されてるけど、やり手のキャリアですって顔に書いてあった。
 俺みたいなひよっこがとか、値踏みされた感じあるし。
 ま、いずれにせよ、工藤の代理なんだから、間抜けなことはできないぞ。
 今までの広告戦略のこととか一応調べてはあるけど。
 工藤の仕事を少しでも減らすことを考えれば、こんなところで二の足を踏んでいるような余裕はないのだ。
 気合を入れて向かった良太がオフィスに戻ってきたのは、とっくに鈴木さんも帰ってしまった夜の八時だった。
 打ち合わせといってもは方向性を決めるための軽いジャブ的なものだ、と工藤からは聞かされていたが、部長の乾、担当の佐原と幸田、それと良太の四人で、午後二時から延々七時半まで、ああでもないこうでもないと意見が交わされた。
 最初は気を張っていた良太も、二時間も過ぎた頃から、実際の撮影状況や今回のゲスト檜山匠についての考察を踏まえ、復習して頭に入れてきたこれまでのプロジェクトからあれこれと引っ張り出しながら自分の考えを率直に口にしていった。
 中にはド素人的な見方もあったものの、案外それに対してバカにするようなこともなく丁寧に説明してくれたのが乾だった。
 ともあれ、会社に辿り着いた時は、「疲れた~」とつい口にするくらいで、身体を動かす方がまだマシと思われた。
「工藤、いつ帰ってくるんだろ」
 しばらく自分のデスクでパソコンを前に良太はぼんやりと座っていた。
 やることはあるのだが、切羽詰まったものはないし、明日にしようと思う。
 窓の外を見ると、葉を落とした街路樹は寒々し気に立ち並び、時折、残っていた葉が風にもぎ取られていく。
 いつからか通りのショーウインドウにはオレンジ色のかぼちゃがニタッと笑ってこちらを見ている。
 人通りが多い昼間はユーモラスにも見えるが、日が落ちてライトに浮かんでいるさまは物寂しくもあった。
 秋が深まるこんな時、誰もいないオフィスに一人でいると、たまに逢いたいと思ってしまう。
 心の寂しさは不意に身体の奥からも工藤を恋しがっていることをわざわざ教えてくれる。
 どれだけかぼうっとしていた良太は、携帯のラインの着信音にハッと我に返った。
『まだ、撮影のスケジュール決まらないの?』
 アスカからである。
 もう少しかかると返信した良太は、パソコンの電源を落とし、オフィスを閉め、自分の部屋に向かった。
 いつものように猫たちにご飯をやり、トイレを掃除し、コンビニで買ってきた弁当を食べ、風呂に湯を張って身体を沈める。
 疲れているのはわかっていたが、いつの間にか眠ってしまい、湯に顔をつけたところで、うわっと目を覚ました良太は、風呂から上がるとベッドにゴロンと横になり、録画していたドラマをチェックするのを思い出して再生ボタンをおした。

 


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