これだから3

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「それで? お許しが出たのか?」
 佐々木の母親は確かかなり厳しい人だと、直子から聞いたことがある良太は驚きのあまりベンチから立ち上がった。
「とりあえずお試し期間?」
 沢村はそれで上機嫌なのだ。
 三冠王を取得した時ですら不愛想な面をしていた沢村がと、良太は呆れた。
 良太が所属する青山プロダクションの大事なスポンサー東洋グループ時期CEOと目される綾小路紫紀の奥方というのが、この『大和屋』の社長の一人娘の小夜子である。
 顔出しをしておけといういつもながらに横暴な社長工藤の命を受けて、苦手な正座で向かわねばならない茶の湯の席に沢村とともに入った良太も無事出てこられたものの、足は痺れ、動きがぎくしゃくしていた。
「今日はこの後どうするんだ?」
 良太が沢村に聞いた。
「昼間は適当に中をブラついて、茶の湯が終わったら撤去作業を手伝うことになってる」
「ふーん」
 つまり一日佐々木さんの傍でブラブラしてるってわけだ。
「ほんとは裏方を手伝うって言ったんだが」
「やめとけ。邪魔になるだけだ」
「何で即答だ? クソ、佐々木さんも同じようなことを言いやがって」
「茶道もよく知らない、でかいやつがうろついてたら迷惑この上ない」
 身も蓋もない良太の言い草に沢村はムッとする。
「だったら茶道を極めてやろうじゃないか」
「引退してからにしろ」
 やはり良太と同じようなことを佐々木に言われた記憶がある沢村は、渋面のまま黙り込む。
 そうやって普段はにこりともしないので、沢村とわかってもファンはよほどでない限り近づいては来ない、はずだったのだが。
「あれ、沢村じゃない?」
「え、あ、ほんとだ!」
「きゃあ、沢村選手!」
 そんな黄色い声が聞こえたかと思うと、一人が駆け寄って「サイン、お願いします!」と声を上げた。
 それが合図のようになって、わらわらと振袖の若い女子が沢村を取り囲んだ。
 おそらくこれもCM効果の一つなのだろう、野球ファンじゃない沢村ファンがどっと増えたのだ。
 たちまち沢村の周りに人だかりができてしまい、さすがに沢村も閉口した。
「お客様、こちらはお茶席でございます。大変恐れ入りますが、フリースペースまでご案内申し上げましょうか」
 プラグインの藤堂が優しい声で、外に誘導しようとにっこり笑顔を浮かべていた。
 騒がしいお嬢様たちはお茶席の順番を待っていたわけで、すみません、と言いながらお茶席を待つベンチへと戻っていく。

 


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