「お前、外に出て客寄せパンダになるか、やっぱもう帰れば?」
不愛想な顔で突っ立っている沢村に良太が言った。
「嫌だ」
「お前駄々っ子みたいに」
藤堂がそれを見て笑う。
「しょうがないな、水屋の方で何か手伝うとか?」
「それが拒否られたみたいです。でかいのがうろつくなって」
良太が代わりに答えた。
「あらら」
藤堂が気の毒そうに沢村を見た。
「良太ちゃん、藤堂さん、いらっしゃいませ」
振り向くと訪問着の直子が立っていた。
「可愛いね、直ちゃん、よく似合ってる」
すかさず藤堂が賛辞を口にする。
「やっぱ変わるよね、着物着ると」
「何それ」
さらっと感想を口にした良太を直子がちょっと睨む。
「あ、いや、ステキです」
「とってつけみたい。ってか、沢村さん、もしよかったら、狭いけど水屋にいらっしゃいます? 何か、囲まれちゃってましたもんね」
「ああ、俺、良太とメシ行ってくるよ」
沢村も茶席の邪魔はしたくなかったので、良太と茶席の待合から出て行こうとしたその時、沢村は待合に入ってきた年配のカップルに気づいた。
女性の方は薄紫の色無地に鳳凰紋の唐織の帯を合わせ、上品な雰囲気である。
「え、何だよ、いったい! 良太、ちょっと待ってろ!」
沢村はそう言うと、急にそのカップルの方へ駆け寄った。
「誰? 沢村っちの知り合い?」
「さあ」
良太と直子は沢村の方にチラリと目をやった。
「そうだ、直ちゃん、ちょっと!」
良太はさっき沢村にさらりと告げられたことを思い出して、直子を隅に誘う。
「どしたの?」
不思議そうに見上げる直子の耳に、沢村が淑子に宣言したらしいことを打ち明けると、「えええっ!」と直子は声を上げてから、思わず口元を手で覆う。
「すご、あの先生に? 沢村っちってほんと怖いもの知らずだよね。それで先生は? なんて?」
「お試し期間とかって」
「ふーん。でも、それっていい兆候かもよ?」
二人がそんなことを話している頃、沢村は見つけた年配のカップルを前に、渋面のまま、「何しに来たんだよ」と声を落として尋ねた。
「だって、佐々木さんがお点前を披露されてるんでしょ? ちゃんと会員に申し込んでお茶をいただきに来たのよ」
「どういうつもりだよ、かあさん」
佐々木のこと以外動じない沢村だが、母親がいきなりこんなところに現れたことに、憤りすら感じていた。
沢村は、沢村家の人間は無論だが、母親彰子のことも完全に信じ切れていない。
大学に進学して家を出た頃から、彰子の方から沢村に近づいてきて、沢村の父親を愛せなかったことや、だからと言って沢村に対しても距離を置いてしまっていたことを謝罪されたものの、沢村にとっては今更だった。
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