そんなお前が好きだった8

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 東は元気を見ながら眉をひょいと上げてみせる。
「お、きたな」
 元気の言葉に、響は窓の外を見る。
「こんちは~」
「卒業したよぉ、元気ぃ!」
 どやどやと入ってきたのは卒業証書を抱えた卒業したばかりの生徒たちだ。
「ああ、キョーちゃんこんなとこにいたぁ! 東も」
「お前ら、東先生と言え!」
「キョーちゃん、俺と写真取ってよ! 高校最後の記念に!」
 たちまち生徒たちに囲まれ、響は早く店を出ればよかったとちょっと後悔する。
 響をひびきとは生徒は読んではくれず、キョーセンセ、とは誰が言い始めたのかわからないが、気づいたら定着していた。
 でなければキョーちゃん呼ばわりだ。
 美術や音楽などの教科は進学校にはついでのようなものなのだろうが、逆についでだからこそか、教室は生徒のたまり場になったりする。
 響は昨年秋、祖父の葬儀で帰郷した際、身体を壊して入院した前任の講師で恩師でもある田村から連絡を受け、あれよあれよという間にバトンタッチされたのだが、当初は自分を見下ろすようなでかい男子生徒やキャラキャラと笑いながら裏ではSNSなどで響には外国語以上に理解しがたい女子高生語で響の品定めでもしていそうだと、侮られまいとバリヤーを張り巡らしていた。
 ある程度の距離を持って響を見ていただろう生徒たちが響にぐんと近づいてきたのは、たまたま東が元気の友達で、この店に連れてこられた響を元気の仲間とみなしたからこそだろう。
 生徒たちは響への対応に手の平を返した。
 元気は高校時代から人気者だった。
 時々妙にオヤジくさい元気は生徒たちにだけでなく、教師たちにも可愛がられていた。
 今もそのまま、代々の後輩たちにも慕われているらしい。

 


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