風呂に入ってから、コンビニ弁当で夕食を済ませ、炬燵に足を突っ込むとちび猫が膝の上に乗っかり、ナータンは良太の脚に顎を乗せるようにしてまったり過ごす。
タブレットを炬燵の上で開いて、あれもこれもと確認作業をしていた良太だが、そのうちうつらうつらし始め、猫と一緒にしばらく転寝をしてしまった。
ハタと気づいた時には、既に八時を回っていた。
「いっけね……」
慌てて炬燵から這い出すと、髪にドライヤーをかけてざっとまとめ、タイを結ぶ。
毎日のことなのに、これがうまくいかないことも多々あり、四苦八苦する。
何とか許容範囲内で結ぶと、猫たちの水などをチェックして、上着を羽織る。
鏡を見ながら身だしなみを再度チェックしていると、今しがた転寝している時に見た嫌な夢の残像が脳裏に舞い戻る。
工藤が女とイチャコラしてるなんてのはこの際、置いとくとしよう。
何で海老原がドアップで出てくるんだ!
全くもって、縁起が悪い。
今日は海老原、くるんだろうか。
マスターがいるんだから、わざわざオーナーが出てこなくたっていいんだからな。
クソ、まだ海外にいますように!
祈るような気持ちで良太は駐車場からジャガーを走らせた。
『ギャット』まで車で数分。
歩いても知れているが、この寒空に風邪なんか拾うわけにもいかないのだ。
さて、幸か不幸か、良太が『ギャット』に到着すると、スタッフが準備をしている中、何と既に海老原がいて、マスター兼バーテンダーの楢木と何やら話し込んでいた。
「おや、良太ちゃん、久しぶり」
ニヤっと笑い、海老原がすぐに良太を見つけた。
「また、お世話になります、海老原さん、楢木さん」
やはりいたか、と内心ガックリしつつも、良太は業務上きっちり挨拶をすると、こちらも溝田監督と何やら話し込んでいる坂口のところに向かった。
「おう、良太ちゃん、京都行ったんだって?」
どこから聞いたんだろうとは思うが、そんなことにかまっていられない。
「よろしくお願いします。はい、とんぼ返りで」
「おいおい、そんなとこまで工藤のマネしなくてもいいんだぞ? せっかく京都に行ったらちょっとハネのばしてくるくらいじゃねえと、この業界やってけねぇぜ?」
「いや、仕事が待ってますから」
「フン、工藤のヤツ、ちっともこっちに帰って来やしねぇが、それこそ向こうで夜を満喫してんじゃねぇのか?」
ハハハと空笑いする良太だが、そのジョークは今、良太には笑えない。
「坂口さん、良太ちゃんをあんまし困らせないでやってよ」
後ろから耳障りのいいバリトンが聞こえてきた。
「宇都宮さん、よろしくお願いします」
振り返って良太は挨拶する。
「はい、こちらこそ、良太ちゃん、何か疲れてない?」
うわ、宇都宮さんも察しがいいから困る。